Maggie～La Vie

　「阪神５‐４広島」（２０日、甲子園）

　奇跡への扉を力づくでこじ開けた。２点を追った延長十回無死。代打で登場した阪神・林が、窮地の虎に喝を入れた。１ボールからの１３５キロ速球。豪快にはじき返した打球は加速度を増して、バックスクリーンに飛び込んだ。この一発がなければ、劇的なサヨナラ勝利もあり得なかった。鳥谷、藤原と一緒に上がった今季初の本拠地お立ち台で、殊勲者は「まさか入るとは思ってなかった」とほほを緩ませた。
　安藤が勝ち越しを許した瞬間、誰もが敗戦を覚悟した。だがこの男はあきらめていなかった。「塁に出る気持ち、（打球が）抜けてくれという気持ちで打席に入った」。研ぎ澄ました集中力、勝利への執念が甘く入ってきた速球を逃さない。０９年７月１７日の巨人戦（東京Ｄ）以来となる自身５本目の代打アーチ。土壇場で飛び出した追撃の今季第１号が、ナインに虎党に再び勇気を与えた。
　今季は満足できるシーズンを過ごしていない。開幕２軍スタート。１軍初出場は６月７日のソフトバンク戦を待たねばならなかった。昇格後も先発出場、代打が混在する状態にあるが、それでも打率・３５０と与えられた場所でしっかり結果を残している。慣れない代打稼業でも同じだ。今季の代打成績はこれで８打数４安打の打率５割で３打点。自分なりのルーティンを築き上げ、欠かさぬ代打の「切り札」となりつつある。
　「いつも六、七回には準備をします。何年前かにも代打をやっているので大体、（起用時期は）雰囲気でわかります」。
　相手投手を想定し、素振りを繰り返す。配球のイメージを描いて打席に入る。一振りに賭ける代打。その難しくも、険しい道をしっかりと林は切り開き始めている。「（球宴まで）あと１試合しかないので、精いっぱいやりたいです」。脇を固める男たちが力を出すチームは強い。前半戦最後の１戦。もう一度、そのバットで勝利に貢献したい。